2009年01月08日

『ねじれた伊勢神宮――「かたち」が支配する日本史の謎』宮崎興二

 北国の小さな城下町で生まれ育った。
三層の天守閣が残る城址にほど近い南西、裏鬼門に三十三の禅寺が今も立ち並んでいる。城が攻め落とされてもこの地へ逃れ、最後まで戦うために作られたという。小山を削ったこの要害は、江戸時代には堀もあったというが、蛇崩が気合を入れてかくれんぼをしていた頃は、土塁しか残っていなかった。
 桝形を抜け寺町に入ると、間もなく正面に黒門があり、この小門をくぐると左側に今にも崩れそうな傾いだお堂があった。当時の素封家が天明・天保の大飢饉の死者の霊を慰めるために建立したそうである。みんな六角堂と言っていたが、じつは八角の稜形であった。
なぜ八角なのに六角と言っていたのか、今もって不思議である。

 八角と言えば、日本の神々は「八」が好きである。
 『古事記』にもあるように、八紘に広がる宇宙の中、イザナギとイザナミは八尋殿(やひろでん)に住み、大八島(おおやしま)(=日本)を生み、子どももたいていは3人と5人、合わせて八人ひと組の神々を生んでいる。
 スサノヲは八握りの髭を生やしてアマテラスのもとへ乗り込み、8人の王子を生むなどして大暴れしたがために、八百万の神々から追放され、出雲に降り立つ。そこで、八俣の大蛇を退治して、8人娘の末娘を娶ることになる。
 その時に詠んだ歌が、
 「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣を」
 その後、スサノヲの末子である八千矛神(ヤチホコノカミ)=大国主命が、総勢八十人の兄たちからいじめられながらも日本を支配するようになるのである。
前方後円墳の時代以降は、天智天皇陵も、天武・持統合葬陵も、文武天皇陵も八角形である。また、天皇家の紋章は、八の2倍の16弁の菊。そして祖先から、八咫(やた)の鏡、八重垣(やえがき)の剣(草薙[くさなぎ]の剣、天叢雲[あめのむらくも]の剣とも云う)、八坂瓊(やさかに)の曲玉(まがたま)の三種の神器を受け継いでいる。
 即位式の折には、八角形の高御座(たかみくら)に入って祝詞を読み上げるし、その時皇后も八角形の御帳台(みちょうだい)に立つ。

 それに比べると、「六」という数字には死のイメージが付きまとう。
 平安時代、平清盛は京都の六条通りに居住していたが、彼は京の六つの入り口に、死人がさまよう「地獄」「餓鬼」「畜生」「修羅」「人間」「天」という六道にちなんだ地蔵菩薩を祀った。地蔵堂のほとんどが六角堂である。
 近所の寺は六波羅密寺と改称され、付近には六道珍皇寺が建てられる。
 鎌倉時代になると、六波羅探題(今でいう警察)が設置され、六条河原は刑場となる。
 「つまり六条の六波羅探題に捕まって六条河原で処刑され、南無阿弥陀仏の六文字を聞きながら六道珍皇寺で六道銭(棺に入れる六文の銭)をもらってダビにふされたあと、六道の辻から六角灯籠に照らされて六道に入るというのが当時の極悪人のフルコースだった。」

 宮崎興二『ねじれた伊勢神宮』(祥伝社)は、こうした数の不思議のみならず、「かたち」に見る日本の歴史・民俗の秘密について紹介する興味深い良書である。ここで述べたエピソードは、すべて本書で紹介されている。

 しかしながら、あの六角堂はやはり不可解だ。
 神道には常住(永遠不変)や清浄の観があり、仏教には無常や不浄の観を想う。冠婚葬祭を見ても、祝い事は神道、悲しみ事は仏教が多い。
朽ちかけた六角堂は内部はらせんになって上り、てっぺんからまっすぐな階段で降りるという構造になっている。別名、栄螺(さざえ)堂。何やら胎内回帰にも似ている。新たに生まれ変わるという意味か。死と再生――神と仏の出会いの場だったのか。


【今回紹介した本】
『ねじれた伊勢神宮――「かたち」が支配する日本史の謎』
祥伝社黄金文庫
1999年1月20日 初版第1刷発行
¥533+税(当時)

【著者資料】(当時)
宮崎興二(みやざき・こうじ)
1940年、徳島県生まれ。
神戸大学勤務を経て、京都大学教授。
四次元建築論で工学博士。


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[著者] 宮崎 興二
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posted by 蛇崩緑堂 at 16:11| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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