2010年01月05日

『狛犬かがみ』たくきよしみつ

 一風変わったクリスマスだった。
 現地のスタッフが海辺でサンタクロースの格好をしている。周りの人々は、蛇崩も含め、クリスマス用に仕立てられた特製の布を腰に巻きつけて、その日を祝った。日本人は余り見かけなかった。多くはヨーロッパからのお客さんたちだった。フランス語を話す人が多かった。
 キリスト教徒ではない私たちは、夕食後、早々にコテージに引き上げた。日中の泳ぎ疲れのためである。むろん彼らは夜遅くまで踊り、杯を重ねていた。DJの選曲するのはユーロ・ビートだった。
 赤道にほど近いこの国はムスリムの国だ。首都の隣の島にある空港から、直接、各リゾートにボートが出ている。リゾートは島をまるごと所有しているため、企業のコンセプトも多彩、もちろんそこではアルコールもOKである。厳密な戒律もない。
 今回も素潜り三昧だった。サンゴ礁に囲まれた島の半周を泳ぎながら潜りながら、1時間は優にかかる。当然ながら途中に休憩所などありはしない。潮の流れをうまく使って、力を温存しながら、揺蕩うのである。午前1回、午後1回。最終日には遂に島を休むことなく1周していた。この島を何周泳いだのだろう。ねむりぶか、海ガメ、ロウニンアジ、テングハギ、固有種のカクレクマノミなどなど、この地域ではお馴染みの動物たちに今回もお目にかかることができた。エル・ニーニョや度重なる暴風のため、サンゴに甚大な被害が出ていた。微力ながらサンゴの植え付けのお手伝いもさせて戴いた。
 この国に来ると、地球の悲鳴が一層大きく聞こえる。

 西側の環礁には仏教遺跡も点在するという。かつては仏教が人々に信仰されていたのだろう。一度訪れてみたいものだ。
 不思議とこの国に来るとき、携える本は日本の歴史に関するものが多い。どこまでも広がるインド洋を眺めながら、古の日本を考える。今回は日本に仏教が伝来した頃をテーマにしたものを読んでいた。それまでの八百万の神々への信仰と国家経営に対して、仏教が果たした役割はこれらを立体的に仕上げたこと。スケールが大きくなり、何よりも理論的支柱をもたらしたということだ。

 ところで、日本のような端っこにある地域には、様々な文物が伝来し、習俗が吹きだまる。ここでは以前からの土着のものに新たな移入が加わり、オリジナルとはかけ離れた亜種が発生する。仏教もそうだし、文字・言語もそう、習慣もそうだろう。
 その中に「狛犬」も存在する。古くからエジプトのスフィンクスなど百獣の王である獅子をモチーフにしたものが多く存在する。時の権力者にとっては、最強の獅子こそ自らの守護神にはうってつけと考えたのであろう。その獅子が極東の端っこの島に伝わると、次第に変貌を遂げる。当初は宮中の守護獣だった狛犬は、神社を守る守護獣として社殿の奥でひっそりと守っていた。
 平安時代前期の『類聚雑要抄』(るいじゅうぞうようしょう)に
 「左獅子 於色黄 口開 右胡麻犬 於色白 不開口在角」とある。
 向かって右は阿像の獅子、左は吽像で角のある犬が、狛犬の古い姿である。「阿吽」は日本独自の姿である。中国の獅子像には見られない。
これがやがて一般にも伝わってゆく。とはいえ本物の狛犬を観た者はいない。神社の奥深くに潜んでいるからだ。そこで想像の狛犬が作られる。参道に鎮座する狛犬はこうして登場することになる。地方の石工の多彩なイメージが各地で咲き誇る。これが江戸時代になると芸術の域にまで達し、明治・大正・昭和と多彩な狛犬たちが神々をお守りすることになる。
 多数の写真で、勇猛で時に愛らしい狛犬たちを紹介したのが、たくきよしみつ『狛犬かがみ』(バナナブックス)である。狛犬好きの蛇崩にはたまらない一冊である。狛犬に対する著者の愛情が溢れだしている。しかも英文訳が併記されており、世界へ狛犬文化を発信しようという野望も見える。意欲的な作品である。そう、本ではあるが、敢えて作品と呼びたい。

 このお陰で神社巡りも一段と楽しくなった。


【今回紹介した本】
『狛犬かがみ』たくきよしみつ(文・写真)
バナナブックス
2006年9月15日 発行
¥1700(税込み)

【著者資料】
たくきよしみつ
作曲家、小説家、狛犬研究家。
『マリアの父親』で第4回小説すばる新人賞受賞。
posted by 蛇崩緑堂 at 10:49| 東京 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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