2010年02月14日

『文科系のための暦読本』上田雄

 旧暦で日々を感じてみると、自然というものをよく見るようになる。
 節句や季節の行事が、年ごとにずれはあるものの、時節の雰囲気が味わえる。
 2月14日(2010年)は、聖バレンタインの日であるが、旧暦の1月1日でもある。そう、正月なのである。ここで旧暦と言っているのは太陰太陽暦、つまり月の満ち欠けを基準に一年を決め、太陽の動きに合わせて調整する暦である。太陰暦と太陽暦の調和暦である。
太陽暦(グレゴリオ暦)では1年は365日、4年に一度を閏年として366日とする。対する旧暦は、月の満ち欠けが29.53日のため、大(30日)・小(29日)の月を交互に並べれば1年が約354日となる。このままでは実際の季節から11日が短くなり、3年もたてば1カ月以上もずれてしまう。月の満ち欠けで「日」を知ることができても、農作業などには暦が役に立たない。そこで実際の季節に合わせるために33〜4カ月に一度の割合で、閏月を当てて調整するのである。
毎年の月の大小が変わるし、閏月も入れなくてはならない。暦と実際の季節にずれが生じるため、太陽の位置を示す二十四節季なども併用する。太陽暦に慣れている私たちにとっては不合理な暦なのだが、これがなかなか面白い。
2010年の桃の節句(旧暦3月3日)は4月16日(昨年は3月29日)、端午の節句(旧暦5月5日)は6月16日(昨年は5月28日)となる。桃の花は、種類によって違うが、3月中旬から咲きだし4月中旬までが見頃である。仲秋の名月(旧暦8月15日)は9月22日(昨年は10月3日[閏5月が入ったためずれが生じる])となる。
蛇崩などは、年中行事などの味わい方や、自然への眼差しにも以前とは違った微妙な変化を感じるのである。
あるいは歴史的な事柄にも興味がわく。
忠臣蔵の討ち入りは元禄15年12月14日。現行の太陽暦では1月30日、さぞ寒かったであろう。あるいは、「願はくは花の下にて春死なんその如月の望月のころ」と詠んでいた西行は、文治6年2月16日に亡くなっている。太陽暦では3月30日、桜の花を愛でたかも知れない。実際の出来事への認識も変わるというものだ。
上田雄『文科系のための暦読本』(彩流社)は暦に関する読み物。暦に関するあれこれが、読みやすく紹介されている。特に蛇崩れにとっては、西洋歴の話題が興味深かった。October(oct=8)が、なぜ10月なのか? 長らくの疑問が氷解した。理由は本書に書かれている。ぜひ読んで戴きたい。蛇崩の大雑把な説明も吹き飛んでしまう。

今年の七草の節句(旧暦正月7日)は、2月20日。草草も育っていることであろう。


【今回紹介した本】
『文科系のための暦読本』上田雄
彩流社
2009年2月20日 初版第1刷
¥1,600+税

【著者資料】
上田雄(うえだ・たけし)
1931年、神戸市生まれ。
神戸大学文理学部文科(国史)卒業。
著書に『渤海国の謎』(講談社現代新書)などがある。

監修者=石原幸男(いしはら・ゆきお)
1951年、神戸市生まれ。
高知大学理学専攻科修了。
posted by 蛇崩緑堂 at 13:06| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月05日

『狛犬かがみ』たくきよしみつ

 一風変わったクリスマスだった。
 現地のスタッフが海辺でサンタクロースの格好をしている。周りの人々は、蛇崩も含め、クリスマス用に仕立てられた特製の布を腰に巻きつけて、その日を祝った。日本人は余り見かけなかった。多くはヨーロッパからのお客さんたちだった。フランス語を話す人が多かった。
 キリスト教徒ではない私たちは、夕食後、早々にコテージに引き上げた。日中の泳ぎ疲れのためである。むろん彼らは夜遅くまで踊り、杯を重ねていた。DJの選曲するのはユーロ・ビートだった。
 赤道にほど近いこの国はムスリムの国だ。首都の隣の島にある空港から、直接、各リゾートにボートが出ている。リゾートは島をまるごと所有しているため、企業のコンセプトも多彩、もちろんそこではアルコールもOKである。厳密な戒律もない。
 今回も素潜り三昧だった。サンゴ礁に囲まれた島の半周を泳ぎながら潜りながら、1時間は優にかかる。当然ながら途中に休憩所などありはしない。潮の流れをうまく使って、力を温存しながら、揺蕩うのである。午前1回、午後1回。最終日には遂に島を休むことなく1周していた。この島を何周泳いだのだろう。ねむりぶか、海ガメ、ロウニンアジ、テングハギ、固有種のカクレクマノミなどなど、この地域ではお馴染みの動物たちに今回もお目にかかることができた。エル・ニーニョや度重なる暴風のため、サンゴに甚大な被害が出ていた。微力ながらサンゴの植え付けのお手伝いもさせて戴いた。
 この国に来ると、地球の悲鳴が一層大きく聞こえる。

 西側の環礁には仏教遺跡も点在するという。かつては仏教が人々に信仰されていたのだろう。一度訪れてみたいものだ。
 不思議とこの国に来るとき、携える本は日本の歴史に関するものが多い。どこまでも広がるインド洋を眺めながら、古の日本を考える。今回は日本に仏教が伝来した頃をテーマにしたものを読んでいた。それまでの八百万の神々への信仰と国家経営に対して、仏教が果たした役割はこれらを立体的に仕上げたこと。スケールが大きくなり、何よりも理論的支柱をもたらしたということだ。

 ところで、日本のような端っこにある地域には、様々な文物が伝来し、習俗が吹きだまる。ここでは以前からの土着のものに新たな移入が加わり、オリジナルとはかけ離れた亜種が発生する。仏教もそうだし、文字・言語もそう、習慣もそうだろう。
 その中に「狛犬」も存在する。古くからエジプトのスフィンクスなど百獣の王である獅子をモチーフにしたものが多く存在する。時の権力者にとっては、最強の獅子こそ自らの守護神にはうってつけと考えたのであろう。その獅子が極東の端っこの島に伝わると、次第に変貌を遂げる。当初は宮中の守護獣だった狛犬は、神社を守る守護獣として社殿の奥でひっそりと守っていた。
 平安時代前期の『類聚雑要抄』(るいじゅうぞうようしょう)に
 「左獅子 於色黄 口開 右胡麻犬 於色白 不開口在角」とある。
 向かって右は阿像の獅子、左は吽像で角のある犬が、狛犬の古い姿である。「阿吽」は日本独自の姿である。中国の獅子像には見られない。
これがやがて一般にも伝わってゆく。とはいえ本物の狛犬を観た者はいない。神社の奥深くに潜んでいるからだ。そこで想像の狛犬が作られる。参道に鎮座する狛犬はこうして登場することになる。地方の石工の多彩なイメージが各地で咲き誇る。これが江戸時代になると芸術の域にまで達し、明治・大正・昭和と多彩な狛犬たちが神々をお守りすることになる。
 多数の写真で、勇猛で時に愛らしい狛犬たちを紹介したのが、たくきよしみつ『狛犬かがみ』(バナナブックス)である。狛犬好きの蛇崩にはたまらない一冊である。狛犬に対する著者の愛情が溢れだしている。しかも英文訳が併記されており、世界へ狛犬文化を発信しようという野望も見える。意欲的な作品である。そう、本ではあるが、敢えて作品と呼びたい。

 このお陰で神社巡りも一段と楽しくなった。


【今回紹介した本】
『狛犬かがみ』たくきよしみつ(文・写真)
バナナブックス
2006年9月15日 発行
¥1700(税込み)

【著者資料】
たくきよしみつ
作曲家、小説家、狛犬研究家。
『マリアの父親』で第4回小説すばる新人賞受賞。
posted by 蛇崩緑堂 at 10:49| 東京 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月14日

『日本人の知らない日本語』蛇蔵&海野凪子

 学生時代、プラトンの研究者である西洋古典学の教授が、照れくさそうに私たち学生に話してくれたことがあった。彼女は念願かなって、プラトンの故郷であるギリシアに旅したときの出来事である。
 当地の人々に話しかけてみるのだが、みんな怪訝な顔をして、彼女のもとから足早に去っていったという。ギリシア語には自信のあった教授にしてみれば、いたく落ち込んだそうである。あるギリシア人の紳士に出会った時のこと、彼が丁寧に指摘してくれた。
 「あなたのギリシア語は、もはや古典語なので、今のギリシア人には通じませんよ」
 プラトンの研究者は古代ギリシア語を学んでいたため、現代人には通用しなかったのである。さしずめ、『源氏物語』の外国人研究者が、日本の古語を使って私たちに話してきたらどうでしょう? しかも流暢に。恐らく面喰って、何事もなかったようにその場を立ち去ることでしょう。
 教授は決まりが悪そうに、しかしニコニコしながらこのエピソードを語ってくれた。

 蛇蔵&海野凪子著の『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)には、そんな異文化の話が盛りだくさん。海外から日本語を勉強しに来た人たちが繰り広げる爆笑のエピソードばかりだ。一所懸命に学んでいるから、本人たちにとっては大真面目なのだが。
 お国に帰ればシャトーに住む本物の上品なフランス人マダムは、任侠映画マニアのためか、「おひかえなすって! 私マリーと申します」と真顔で自己紹介。「私のこと姐さんと呼んで下さい」と言えば、他の外国人生徒に「てめぇ、シカトすんな」(ねぇ、聞いてる?程度の気持ちで)とも言う始末。普通の日本語とヤクザ言葉の使い分けなんて、そもそも無理というものなのでしょう。ここにスウェーデンから来た黒澤映画マニアの若い女性が、マリーさんの入学を聞きつけて意気投合。武士言葉をヤクザ言葉の織りなす、恐ろしい日本語が展開されるのである。

 言葉を学ぶということは、その国の文化を学ぶということでもある。この本を読んでいて、なるほどと思うこともしばしばだ。
返された答案用紙を愕然として眺めていた生徒、そこには“○”ばかり。正解に“✔”をつける国の方が多いとのこと。確かに機内での入国票には、チェックを入れることになっている。あるいはゲーム機のコントローラ。日本では「○」を押すと「決定」、「×」を押すと「キャンセル」を意味するが、アメリカ版は逆だという。まさに、ところ変われば、といったところである。

 最後に、凪子先生は海外の日本語教科書を手にして驚いたそうである。
  「素敵なお召物ですね」
  「いえ、こんなのはぼろでございます」


【今回紹介した本】
『日本人の知らない日本語』蛇蔵&海野凪子
メディアファクトリー
2009年2月20日 初版第1刷発行
2009年7月17日 第10刷発行
¥880(税別)

【著者資料】うみの・なぎこ(原案)
日本語教師、日本語教師養成講座講師。

へびぞう(構成・漫画)
イラストレーター兼コピーライター。
posted by 蛇崩緑堂 at 12:00| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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